藤永 豪 准教授

専門分野: 村落地理学

現在の研究テーマ:
1)農山漁村における住民の環境利用と空間認識

2)村落空間の変容と景観

3)地域資源としての農山漁村空間とその活用

  農山漁村に居住する人々が、山や平野、海で、自分たちを取り巻く自然環境とどのように関わり合いながら、どのような生業を営み、生活空間を展開してきたのかを調べています。一つの例ですが、現在、有明海沿岸漁民の環境認識について調査を行っています。われわれ都市の住民からすると、海はすべて同じ風景にしか見えません。しかしながら、漁師にとって、海は魚を獲り、生活を成り立たせるための重要な場所です。ですから、漁師は、いつ、どこで、どのような魚が獲れるのか、海底地形や水温、潮の動き、対象魚種の生態などとあわせて、有明海の自然環境を熟知しており、魚場を細かく分類しています。例として、図には、かつて漁師の皆さんが使っていた有明海の地名を示しました。これによると、地名は干潟域を中心に分布し、沖合いの水深の浅い部分にも付されています。湾東部と沖に、アミアライスやタカツ、ガンドウス、デンノツ、ニシノス、ミネノス、ノザキノスといった、語尾に「ス」あるいは「ツ」が付く地名が多くみられます。地元の漁師は「トゥ」と発音するようですが、この「ス」・「ツ」は、干潮の際、干潟が出現する場所で、なかでも砂地を指しています。漁民たちは引き潮で「ス」・「ツ」が出現することを「トゥのでた」、「トゥのでく」と表現します。また、湾奥から西部にかけて、フクドミガタ、ナナウラガタといった末尾に「ガタ」という語が付く場所がみられます。「ガタ」も引き潮の際に出現する干潟ですが、砂地ではなく、粒子の細かい泥土が広がる箇所を指しているようです。さらに、湾東部の河口域にはシオタカワジリ、ハマカワジリ、タラカワジリ、イトキカワジリといった「カワジリ」という語尾をもつ地名がみられます。この「カワジリ」は河口から延びる干潟の境界付近を指すようです。このように、大まかですが、地名から漁民たちが有明海の環境をどのように分類し、認識しているのかが把握できるのです。

 

有明海における通称地名(昭和40年頃)(佐賀県有明水産振興センター資料をもとに作成)

 

受験生のみなさんへ: しかしながら、こうしたローカルな民俗文化は消滅の危機に瀕しています。日本人のライフスタイルが高度経済成長期以降、大きく変わってしまったためです。かろうじて、昭和一桁生まれの方々が、その一部を継承していますが、この方々がなくなってしまえば、文字に残されていない地域の文化は失われてしまいます。すなわち、地域の記憶としての文化を記録・保存するチャンスは、今しかないのです。受験生のみなさん、是非、一緒にフィールドに出かけ、農山漁村に継承されてきた生活文化とその活用について考えてみませんか。

 

鹿島のオシマサンの清掃作業(2009年7月)

焼畑と狩猟を主な生業としてきた四国山中のムラ。右側はシシ鍋(2004年3月)

長崎軍艦島の見学(北部九州地域論)(2009年7月)

現地調査(フィールドワーク)の授業では、ムラに泊り込んで自分の足でデータを集めます。時にはムラの人々と一緒に食事をしたり、お酒も飲んだりしながら、お話を伺います。(集落実地調査)(2007年9月)

 

ラオスの山村の調査風景

佐賀平野のクリーク(神埼市内)